ブラックバス(オオクチバス・コクチバス)等特定外来生物の魚類に関する質問主意書
「ブラックバス」と総称されるオオクチバスとコクチバスは、「特定外来生物の生態系等に係る被害の防止に関する法律」(以下、「外来生物法」という。)が施行される際、同法の規制対象である「特定外来生物」に第一次指定された。しかしながら、ブラックバスは、その放流に厳罰が科されるようになったにもかかわらず、生息水域が拡がり続けている。その背景には、これらの魚が特定外来生物として生態系等への被害を防止するため防除すべき対象である一方で、娯楽や営利目的で野外にいる個体を利用すること、つまり釣ることが容認され続けていている現状がある。すなわち、たとえ違法行為の結果であったとしても、野外でブラックバスが生息する状況を、規制を受けることなく利用できるという旨味があるため、匿名性の高い放流が止まらないと考えられる。
この問題は、二〇二二年度の外来生物法の改正時にも指摘され、改正法の附帯決議には「被害や違法放流の実態の把握」、「違法放流の撲滅を目指した対策と防除の取組の強化」、「オオクチバス漁業権の在り方やオオクチバス対策の方針の見直し、対策の実効性を高めること」が「措置を講ずべきこと」として記載されている。
従って、次の事項について質問する。
一、外来生物法の目的は「特定外来生物による生態系等に係る被害を防止し、もって生物の多様性の確保、人の生命及び身体の保護並びに農林水産業の健全な発展」を通じ「国民生活の安定向上に資すること」(第一条)である。また、第三条に基づき閣議決定された外来生物法改正後の特定外来生物被害防止基本方針では、ブラックバスのように定着済みの特定外来生物については、「生態系からの完全排除、封じ込め、被害低減のための低密度管理等の防除を…実施する」と記されている。これらの目的ないし基本方針に則れば、生態系等に被害を及ぼす特定外来生物が野外に生息する状況を、特定の受益者が利用しないことを原則とすべきであると思われるが、環境省の見解を示されたい。また、ブラックバスについては水産業にも関わるため、農林水産省の見解も同様に示されたい。
【内閣の答弁書】
一、お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、環境省及び農林水産省としては、オオクチバス及びコクチバス(以下「ブラックバス」という。)を含む、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成十六年法律第七十八号。以下「外来生物法」という。 )第二条第一項に規定する特定外来生物 (以下「特定外来生物」という。)を御指摘の「特定の受益者が利用」することについては、外来生物法や条例に違反しない限り禁止されないと承知している。
<ノーバスネットの見解>
● 嘉田議員は質問主意書の前文で、バス釣りが容認され続けていることがバスの違法放流が止まらない主な原因である旨を指摘しており、質問の趣旨は明確であるので、政府はこの点に関する認識について誠実に答弁すべきである。
● 「違法放流の原因は何だと考えるか」「これまで放置してきた理由」についての見解を回答すべきである。
● 「特定の受益者が利用」することは「外来生物法や条例に違反しない限り禁止されない」とのことだが、この見解を元にブラックバスを利用する受益者(地方公共団体を含む)が続出した場合、オオクチバス・コクチバスの特定外来生物指定は事実上、意味を失うと考える。現在、特定の受益者による利用が拡大しているのは、それを目的としていると考える。
二、(主に山間地の)河川に建造されるダム湖は、ブラックバス、特に中上流域の魚類への被害が懸念されるコクチバスが新たに確認される事例が相次いでおり、違法放流のターゲットになっていることは疑いない。これについて、違法放流の防止対策及び違法放流の成果を利用させないバス釣り禁止などの措置を行う等の対策が必要と考えるが、ダムの設置及び管理の主務官庁である国土交通省並びに農林水産省はどのような対策を行うか示されたい。また、環境省は外来生物法及び自然公園の主務官庁として、ダム湖の自然公園としての利用と管理においてどのような外来生物対策、措置を行うか示されたい。
【内閣の答弁書】
二、国土交通省は、同省が管理するダムにおいて、地方公共団体、漁業協同組合等の関係者と連携して、外来魚の持込みや持ち出しを禁止する看板等の設置、外来魚を回収するボックスの設置、外来魚に対する対策に関する学習会や外来魚を駆除するイベントの実施等を行うとともに、これらの事例を取りまとめた「河川における外来魚対策の事例集」(平成二十五年十二月国土交通省水管理・国土保全局河川環境課作成)を、河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第三条第二項に規定する河川管理施設であるダムの管 理者等に周知しているところである。
農林水産省は、「環境との調和に配慮した事業実施のための調査計画・設計の技術指針」(平成二十七年五月農林水産省農村振興局取りまとめ)において、同省が所管するダムの管理者等に対し、「生態系の保全には、環境配慮対策の実施だけではなく、適切な維持管理が継続的に行われることが不可欠である」 ことから、「環境に配慮して計画された施設について必要となる維持管理項目や内容、管理主体の検討を、関係者の合意形成を図りつつ行い、維持管理計画として取りまとめる」こととし、その「維持管理項目」として「ため池等への外来種の違法放流等の防止」を、当該項目に係る「維持管理内容」として「オオクチバス等の特定外来生物の放流は違法であり禁止されている旨の看板等を設置」や「定期的な見回り等」を例示し、周知しているところである。
また、環境省としては、自然公園内のダムにおける特定外来生物の放出(外来生物法第九条に規定する放出をいう。)の禁止を含む外来生物法第二章に規定する規制の内容について、パンフレツト等を通じ普及啓発を図っているところであり、国土交通省、農林水産省、地方公共団体等の関係者と連携し、当該規制に係る監視を強化してまいりたい。
<ノーバスネットの見解>
● ダム湖におけるバス釣り禁止の措置の実施に関し3省とも言及を避けているが、この件について答弁すべきである。
● 引用されている国交省「河川における外来魚対策の事例集」は2013年刊。10年間周知している。その結果と今後について、国交省は説明すべきである。
三、改正外来生物法第二条の四が規定する事業者及び国民の責務は「外来生物を適切に取り扱うよう努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する特定外来生物による…被害の防止に関する施策に協力するもの」であるが、現状では釣ったブラックバスはリリース、つまり再放流する「キャッチ・アンド・リリース」が当然とされ、釣り人は特定外来生物を釣りで捕獲することで、被害の防止に貢献できる状況にありながら、みすみすリリースしてしまい、そうした釣り人を顧客とする事業者ともども、駆除に協力することはほとんどない。もともと釣りにおけるキャッチ・アンド・リリースは、対象の魚を資源として維持・管理するために導入されたもので、このことは、リリースをしない釣りが対象の魚を減らし、駆除に大きく貢献できることを意味する。バス釣りを禁止することができない場合の次善の策として、釣ったブラックバスがリリースされ「生きたまま野外で利用」され続ける現状を改め、釣り人等にリリースをしない釣りにより駆除に対する協力を求めるべきではないか。特定の魚種の生息数を減らす施策は、漁業法等の想定外であると拝察するが、遊漁の主務官庁である農林水産省はこれにどう対策するか示されたい。また、共管である環境省は農林水産省に協力してどのような措置を行うべきと考えるか示されたい。
【内閣の答弁書】
三、 お尋ねの「釣り人等にリリースをしない釣りにより駆除に対する協力を求める」ことについては、「オオクチバス等に係る防除の指針」(平成十七年六月三日環境省・水産庁作成)において、「個体数低減化手法の導入に際し、留意すべき事項」として、「個体数低減化の効果を期待する観点から、自治体の条例や内水面漁場管理委員会の指示等によりキャッチ・アンド・リリースを禁止している地域があります。この手法の導入については、防除水域の状況に応じて、当該水域での必要性等を個別に検討することが適切です。」との考え方を示しているところ、環境省及び農林水産省としては、釣りによる防除も含むブラックバスに対する対策に関して普及啓発等に取り組んでまいりたい。
<ノーバスネットの見解>
● 「当該水域での必要性等を個別に検討することが適切」と書かれているが、どのような場合にキャッチ・アンド・リリースを禁止することが適切か、「オオクチバス等に係る防除の指針」において政府の見解を自治体に示すべきである。
● 「釣りによる防除も含むブラックバスに対する対策に関して普及啓発等に取り組む」との答弁であるが、釣りによる防除に関しては具体的にどのようなことを行うのか、その実効性が期待できるのか、政府の見解を示すべきである。
四、外来生物法施行後、ブラックバスが漁業権魚種として免許されているのは全国で四つの湖、神奈川県の芦ノ湖と、山梨県の河口湖・山中湖・西湖のみである。しかし、それ以外の内水面漁協の中に、ブラックバス釣りにも遊漁料が必要と記載する漁協がある(京都府等の複数の漁協)。ブラックバスに漁業権が免許されていない内水面漁協がバス釣り人から遊漁料を徴収している実態は外来生物法の意義を否定するものであるばかりか、漁業法の根幹を揺るがすものであるが、農林水産省はこれにどう対策するか示されたい。また、漁業権のないコクチバスから釣りガイドや貸しボート業者が遊漁料を徴収する長野県野尻湖や、福島県檜原湖などの例も放置されているが、これらにどう対策するか示されたい。併せて環境省は協力してどう対策するか示されたい。
【内閣の答弁書】
四、ブラックバスを採捕する際に、ブラックバスが漁業権の対象とされていない内水面漁業協同組合が漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)第百七十条第二項第二号の遊漁料(以下「遊漁料」という。)の 納付を求めていることについては、御指摘の「釣りガイドや貸しボート業者」等を経由して納付を求めている場合を含め、一部の内水面漁業協同組合において、ブラックバスだけを採捕することは事実上困難であることから、漁業権の対象とされている他魚種が採捕される可能性があることを理由として、遊漁料の納付を求めているものと承知しているところ、農林水産省としては、漁業権の対象とされていない魚種を採捕するという名目で漁業権の対象とされている魚種を混獲するものであると客観的に認定し得るときは、遊漁料を納付させることができると考えているが、いずれにせよ、遊漁料については都道府県知事において適切に運用されるものと考えている。
環境省及び農林水産省としては、遊漁料納付の有無にかかわらず、特定外来生物が外来生物法に基づいて適切に扱われるよう、普及啓発等に取り組んでまいりたい。
<ノーバスネットの見解>
● 「漁業権の対象とされている魚種を混獲するものであると客観的に認定し得るときは、遊漁料を納付させることができる」と解釈するのであれば、どのような釣り方でも混獲は免れないので、全ての魚種に対する釣りに遊漁料の納付を求められることになるが、これは事実上、第五種共同漁業権に基づく秩序の崩壊を意味する。何らかの基準に基づく線引きが必要であり、農林水産省は説明を修正すべきである。
【詳細】
答弁書において農林水産省は、「漁業権の対象とされていない魚種を採捕するという名目で漁業権の対象とされている魚種を混獲するものであると客観的に認定し得るときは、遊漁料を納付させることができると考えている」としているが、水産庁漁政部長通知(昭和38年1月30日「漁場計画及び漁業権行使規則等に関する問答集送付について」)では、「漁業権の内容となっていない魚種を採捕するという名目で漁業権の内容になっている魚種を混獲している場合であって、その遊漁行為が漁業権対象魚種の採捕をも含むと客観的に認定し得るときは、遊漁規則に基づいてきめられた遊漁料を納付させることができる」となっており、答弁書では「混獲している場合であって」という重要な部分を省略している。
つまり、答弁書では、混獲前でも混獲の可能性があれば遊漁料を納付させることができるとしているが、漁政部長通知では、実際に混獲している場合に限って遊漁料を納付させることができるとしている。
答弁書のとおりだとすれば、次の2点で非常に重要な問題である。
1.内水面での遊漁の衰退を招く〜混獲が確認されなくても、混獲の可能性があるという理由で遊漁料を納付させられるならば、増殖コストが低いために遊漁料の安いフナやコイなどを釣りに来た人に対して、遊漁料の高いアユや渓流魚の遊漁券購入を求めることができることになる。そうなれば、フナやコイなどの釣り人は減少し、内水面における遊漁は益々衰退することになる。
2.違法放流を一層助長する結果を招く〜ブラックバス釣りで見られるように、違法放流された魚種を釣ることに対して、漁業権魚種の混獲を理由に遊漁料の徴収を認めるなら、漁協が違法放流を黙認する動機が生まれ、違法放流が止まらないことが懸念される。
● 水産庁は上記2点を考慮し、漁政部長通知の変更がないことを明確にするべきである。
五、岐阜県海津市等、地方公共団体が「バス釣りの町」をうたい、ふるさと納税返礼品にバス釣りツアーを提供するような例がある。改正外来生物法で、定着済みの特定外来生物の防除の責務や努力義務が規定された地方公共団体が、野外での特定外来生物であるブラックバスの有効利用を助長するような例に対して、環境省、農林水産省はどう考え、どう対策するか示されたい。
【内閣の答弁書】
五、一についてでお答えしたとおり、環境省及び農林水産省としては、一で御指摘の「特定の受益者が利用」することについては、外来生物法や条例に違反しない限り禁止されないと承知しているが、各地方公共団体において、外来生物法第二条の三の規定に基づき、当該地方公共団体の区域における特定外来生物による生態系等に係る被害の発生の状況及び動向その他の実情を踏まえ、防除等の措置を講じ、又は講ずるよう努めるものであると考えている。
<ノーバスネットの見解>
● 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止のために必要な措置を講ずる地方公共団体の責務と、ブラックバスを地域振興に利用することによってブラックバスの増加を助長することになる責任をどのように折り合いが付けられるか、政府は具体的に示すべきである。外来生物法の趣旨に照らせば、「(防除等の措置を)講ずるよう努めるものである」と「考えている」だけでなく、そのことを当該地方自治体に対して周知させるべきである。
● 一にも記載したが、「特定の受益者が利用」することは「外来生物法や条例に違反しない限り禁止されない」とのことだが、この見解を元にブラックバスを利用する受益者(地方公共団体を含む)が続出した場合、オオクチバス・コクチバスの特定外来生物指定は事実上、意味を失うと考える。環境省、農林水産省はそうした事態を想定した対策を行うべきである。
六、外来種被害防止行動計画が二〇二四年度中に改訂される予定と聞いているが、この計画は二〇一五年に、環境省、農林水産省、国土交通省の3省により作成、公表されている。野外における有効利用が放置され、放流という違法行為が止まらないブラックバスの特殊性に鑑み、上記の問題解決につながる具体的な記述が書き込まれるか示されたい。
【内閣の答弁書】
六、外来種被害防止行動計画(平成二十七年三月二十六日環境省・農林水産省・国土交通省作成)については、令和六年度中の改定に向けて、「外来種被害防止行動計画の見直しに係る検討会」において議論しているところであり、その改定内容は現時点では未定であり、お尋ねについてお答えすることは困難である。なお、現行の同計画においては、「オオクチバスやブルーギルなど、レクリエーションの対象となるような種については、意図的に拡げられることがないよう、定着・未定着水域ともに、侵入の監視、早期発見・通報を行える体制の整備を進めること、また、定着水域は他水域への拡散源となり得るため、逸出防止策を実施することも重要になります。」と記載しているところである。
<ノーバスネットの見解>
● 現行計画では「重要」とだけ書いてあり、誰が、どのようなことを、いつまでに実施するか具体的に書かれていない。この点の言及がないのは計画とは言えず、実効性もないので、外来種被害防止行動計画の改定に際しては実施主体、実施内容、目標期日について具体的に言及するべきである。
以上
※本文PDF版ダウンロード
|